オーディオ評論家 山本浩司先生xBeatink 田中木里子さん M20 Pt.1
オーディオ雑誌HiVi、ステレオサウンド等でハイエンドオーディオ評論をなさっている山本浩司先生の都内アトリエを訪ねました。
今回は音楽好きから一目おかれる音楽レーベル「Beatink」からBeggars Japan Product Managerの田中木里子さんと
Beatinkで取り扱っている楽曲を試聴しながらQ AcousticsのM20を評価していただきました。
今回は前編となるPart.1を掲載します。
*本記事には使用した作品が試聴できるようになっております。ぜひ聴きながらお読みください。
なおこの音源はSpotifyですので先生や田中さんが試聴したソースとはフォーマットや音質が異なります。ご了承ください。
試聴機材
- Q Acoustics M20
Bluetoothを介しての無線接続、アナログ・デジタルの有線接続もサポート
Q Acousticsのアクティブスピーカー
はじめに
山本先生 (以下Y). 今日はQ AcousticsのM20というBluetooth対応のアクティブスピーカーを聴きます。以前もM20の試聴レポートを作りましたが、同じ内容では芸が無いという事でゲストをお呼びしてお話ししていこうと思います。
今日は音楽レーベル「Beatink(ビートインク)」から田中さんをお招きし、試聴する音楽もBeatinkからリリースされているものを聴いていこうと思います。
では早速聴いていきましょう。
Just Like A Woman / Cat Power / Cat Power Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert (Domino)
Top Boy Theme / Brian Eno / Top Boy (Score from the Original Series)(opal)
田中さん(以下T). 本当にこの2本のスピーカーからしか鳴っていないんですか?中央に機材がありますが、これは関係ないのですか?
Y. それはサブウーファーですが、今は鳴っていません。
田中さんが言うように音がちゃんと中央にあるように聴こえるのがステレオ(ステレオフォニック)効果です。
ステレオというのは人間が左右の耳を使い音の位相差や音量差を感じ取り、音の方向や距離を把握する両耳効果を利用したもので、正しいセッティングで聴くとこのように音像定位が定まります。
今田中さんが座っている場所とM20の位置を線で繋ぐと正三角形になるようにセットしています。
これが今言った正しいセッティングの基本です。
スタジオのエンジニアもモニタースピーカーとの位置関係が正三角形になるようにしているはずですよ。
T. すごいですね!2本のスピーカーのちょうど中心から音が聴こえました。
Y. そうですね。そう聴こえるように作られているんです。
実際に音が真ん中から発生しているわけではないので錯覚なのですが。
T. 私はここまできちんとセットアップされた環境で音楽を聴いていなかったので驚きました。
私が普段スピーカーで音楽を聴く環境というのはライブハウスであったり、クラブであったりするので。
もちろんそういった場所でもセットアップはきちんとされていて、いい音では聴けているのですが、「そこにいる」「そこにある」という感じ方をしたのは初めてです。
Y. 今田中さんが感じた「音が真ん中から聴こえる」という感覚を僕たちはサウンドステージと表現します。
噛み砕くと、目の前にステージができると言えばいいでしょうか、中央にボーカリストがいてその奥にドラムがあり、右側にギターがあるというように聴こえる,
このようにステージを仮想的に表現しているのがステレオ再生なんです。
ヘッドフォンなどを使えば、音が左右でどのように振り分けられているかはわかるのですが、ヘッドフォンの場合はいわゆる「脳内定位」といって頭の中で音が定位します。
ですので、目の前で演奏しているようには感じません。
T. 確かにヘッドフォンの場合はそうですね。今聴いている感じでは再生されませんね。
Y. ヘッドフォンやイヤフォン聴く音楽とスピーカーを使って聴く音楽の違いはそういったところで、スピーカーを使ったステレオ再生の面白いところでもあります。
この面白さにハマってしまうと僕のようなオーディオマニアになるわけです。
T. 今までもいい音で聴く機会はありましたが、ここまで驚きを伴う体験はありませんでした。
どうなっているんだろう……なんだか変な感覚です。
Y. 正しくセッティングされていればこのように再生されます。正しいセッティングと言っても難しい事は何もなくて、スピーカーをシンメトリーに配置してその真ん中に座ってくださいね、というだけなんですけどね。
真ん中というのは今のような正三角形の位置関係です。
ただそれだけではあるんですが、意外とそれができていない事もあるんです。
例えばカフェでたまに見かけるのは左と右のスピーカーの置いてある高さが違っていたりします。
T. 確かに見たことありますね。
Y. そうですよね。そういったセッティングでは今聴いてもらったような感覚にはなりません。
T. 真ん中の良い場所に座っていても高さが左右で違うとダメなんですね。
Y. もう1つ補足すると、ツィーターという高音域を再生しているドライバーの高さと耳の高さがそろうようなセッティングが望ましいです。更に体験の質があがります。ちなみに今はそうなるようにセッティングしています。
したがって、スピーカー位置が低かったり、天井から吊られていたりすると今のようには聴こえません。
T. なるほど、今日は完璧にセットアップされているので、真ん中から音が出ていると錯覚するように聴こえているんですね。
田中さんにオーディオセッティングのレクチャーをする山本先生
Y. ステレオ再生やセッティングについてはこれくらいにして、
M20の音色や性能についてもお話を伺っていきます。
今日は田中さんがお仕事されているビートインクで取り扱っている楽曲を聴いています。
まずはキャット・パワー(Cat Power)によるボブ・ディランのカバーでしたが
声の感じやアコースティックギターの響きについてはどう感じましたか?
T. そうですね、吐息というか息遣いが聴こえて、「歌っているな」というのが非常にリアルに感じられました。
Y. 田中さんは音楽レーベルでお仕事をされているので釈迦に説法ではありますが、作り手としてはそのように録音しているはずです。
M20はそれをきちんと再生できているという事です。
T. レコーディングのときに息遣いや歌い方がきちんと録られていても、私の普段の環境だと聴き取れないケースもありましたが今はそれらを聴き取ることができました。
Y. このアルバムはスタジオ録音ではなくロイヤル・アルバート・ホールでのライブ録音なのでライブならではの感じがありましたね。
T. 確かにそれもすごく感じました。
Y. はい。ステージの上で彼女が弾き語っている様子が目の前に浮かびました。それに加えてホールプレゼンス、つまり会場の響きや空気感もよく再現されています。
良いスピーカーをちゃんとセッティングするとこのような要素も聴き取ることができますね。
さてその次は巨匠ブライアン・イーノ(Brian Eno)が手がけたTop BoyというイギリスのTVドラマの劇伴からテーマ曲のTop Boy Themeを聴きました。
こちらは先ほどのアコースティックなライブとは対照的にスタジオで電子楽器を用いて彼が作り上げた音楽です。
どうでしたか?
T. この曲は音のクリアさ、綺麗さが際立っていたように感じました。
Y. 僕がこの曲を聴いていて感じたのは、
この楽曲は様々な音のレイヤーがミルフィーユのように重なっていますが、それが分かるという事です。
T. 確かにそうですね。重なっている音の1つ1つをきちんと聴くことができると思いました。
なんと言うか、色々な音のレイヤーがある中で、それぞれの音が際立っている感じです。
彼の意図する仕掛けというか、表現がより理解できると思わせてくれる音です。
Y. これはドラマの劇伴なので楽曲単体をこのように分析的に聴くべきでは無いのかもしれませんが、その音の仕掛けみたいなものが見えてくると面白いですよね。
T. 確かに面白い、楽しいなあ。めちゃ楽しいです(笑)
Y. いい音は楽しいんですよ。
さて、それでは次の曲を聴きましょう
Wendorlan /Squarepusher / Dostrotime(Warp)
Lucky / Erika De Casier / Still (4AD)
Y. まず1曲目はオースティン・ペラルタ(Austin Peralta)のThe Garden (Jondy・BBC Media Vale Session)。
BBC Media Valeとありますので、ロンドンでのセッションを録音したものですね?
T. はい、そうです。
オースティンはカリフォルニア出身の天才ジャズピアニストです。
このアルバムは再発盤でオリジナルは2011年にリリースされました。2月9日に再発盤がリリースされるのですが、今聴いたのはボーナストラックとして追加収録された4曲のうちの1つです。
ボーナストラックのセッションにはザ・シネマティック・オーケストラ(The Cinematic Orchestra)というBeatinkでも取り扱っているレーベル 「Ninja Tune」所属のUKのグループから数人のミュージシャンが参加しています。
オースティンは10代の頃から神童と呼ばれる天才ピアニストでした。
この作品の制作時期(2011年)オースティンが20〜21歳の頃は、ブレインフィーダーのレーベル主宰でプロデューサーのフライングロータス(Flying Lotus)や、レーベルメイトのサンダーキャット(Thundercat)と出会い、その後の新世代ジャズを創造する最重要人物となるはずでした。
「なるはずでした」と過去形の表現なのですが、実は彼は今作リリースの翌年2012年に22歳の若さで亡くなってしまっているんです。
Y. それは残念です。
しかし、これは素晴らしい音楽ですね。
緩めの6/8拍子のリズムで自由にセッションしている感じが出ていますが、この曲を聴いてすごく良いなと思ったことは低音の聴かせ方です。
リッチな低域感なんですが、音が鈍くならない。
音楽の土台となる低域がきちんと再生されているかは非常に重要で、低域が出ていなかったり、歪みっぽかったりするとどうしても音楽の良さが伝わらない。
このM20はこのサイズでここまでの低域再生ができるのは素晴らしいと思います。
T. スタジオセッションの臨場感もしっかり伝わってきたし、音も良かったです。
録音自体は彼が存命の2011年のもので、10年以上前の録音です。
10年が経過していても、こうして再発盤がリリースされるというのは、"それほど価値があるアーティストだ"という事の裏付けでもありますが、
もう新作や演奏を聴く事ができないんだと思うと、聴いていて少し切ない気持ちになりましたね。
オースティンは、Beatink主催イベントでサンダーキャットのバンドメンバーとして来日してくれていましたし、色々と思い出し感情を揺さぶられました。
Y. 田中さん達が音源を世に出してくれるからこそ、僕たちはいつまでも良い音楽を聴くことができる。尊いお仕事です。
音の面で言うと、この曲のように新生代のジャズ作品は音のディティールが面白いので良いスピーカーで聴きたくなりますね。
T. たしかにそうですね!先ほども話に出た目の前にステージができる感じが良いですね。
ヘッドフォンで聴く印象とは全然違います。
この音楽とこのスピーカーの相性がすごく良いのかもれません。非常に良かったです。
Y. 次はスクエアプッシャー(Squarepusher)のWendorlanですが、どうでしたか?
T. うーん……これに関しては正直物足りなさを感じてしまいました。
2022年の来日公演時に轟音で映像もバキバキなライブを体験してしまってるので……
Y. そうだと思いました(笑)
ホームリスニングとクラブでの拡声では求められるものがまったく違いますから。
特にこういったダンスミュージックをクラブで聴いた経験があると物足りなく感じると思います。
この手の音楽はクラブのサウンドシステムで再生される事を意識しているので、クラブ仕様の低音と爆音があった方が良いです。
その低域をこのサイズのスピーカーに求めるのは酷です。
僕がメインで使っているJBL Project K2 S9900であればもう少し「らしく」再生できると思います。
ただ、ここでそんな音を出したら近隣からすぐに苦情が来ますが(笑)
T. そうですね。高音域のウワモノはリアルでバチバチ来るんですが、低域が物足りないですね。
ダンスミュージック特有の、あのお腹にくるパンチのある低音は出てないなと感じました。
Y. それはもう、お出かけして聴いてください(笑)
T. そうですよね(笑)家で聴くものではないかもしれませんね。
Y. 一応補足しておくと、このM20にはアクティブサブウーファーに接続できる出力がついています。
これを使ってサブウーファーを鳴らせば今よりもっとクラブ仕様の低音が出せます。
M20の背面パネル
「SUB」と書かれているRCA出力端子をアクティブサブウーファーに接続すると、低域を拡張できる
Y. M20はこのサイズにしては非常に良くできていて、ポップスやロックを再生する分には低域が不足している感じはありません。
ただダンスミュージックの踊らせるための低域成分、田中さんの言葉を借りるとお腹にくる低音はどうしても出ません。
これはM20がというよりはホーム用のブックシェルフスピーカーで再生できないと言った方が良いかもしれませんが。
T. こういった曲を家で爆音で聴きたいのかと言われると……私の場合はどうかな?と疑問符はつくのですが、
印象としてはライトでした。もう少しヘヴィーさが欲しいですね……
こんな事言って大丈夫ですかね?
Y. 全く問題ありません。そうやって正直に言ってくれた方が良いですよ。
さて、次は3曲目エリカ・デ・カシエール(Erika De Casier)のLuckyという楽曲です。
T. 彼女はK-POPグループ NewJeansに楽曲提供もしているコペンハーゲン出身の33歳のヴォーカリストですね。
新世代のR&Bヴォーカリストというような捉え方をされています。
今聴いたLuckyはトラックのフォーマットとしてはドラムンベースだったりするのですが、そこにR&Bテイストのヴォーカルがのっている、という形になっています。
今国内でも非常に注目度の高いミュージシャンで色々な媒体から取材の依頼が来ていますよ。
Y. なるほど。M20で聴いてみていかがでしたか?
T. 私は彼女の作品は非常に好きで、家でも会社でもよくかけているのですが、
彼女のヴォーカルとこのスピーカーの親和性が高いのかなと思いました。
Y. M20で聴くとヴォーカルがより生々しく聴こえると?
T. そうです。先ほどもキーワードとして挙げたのですが、ヴォーカル主体の作品は息遣いであったりが聴こえますよね?個人的にそういった音が好きなので、ついつい聴いてしまうのですが、今聴いた音は非常にリアルで思わず引き込まれる感覚になりました。
Y. 音楽を聴く上でそういった表現がきちんと再生されるとハッとしたり、ドキッとしたり、より音楽に没入できますよね。
T. はい。ヴォーカルがすごく引き立って聴こえました。
Y. 僕もまったく同じ感想です。
M20は声の表現が良くて、それは僕がこのスピーカーに対して抱いている好印象の要因の1つです。
人間の耳というのは人間の声に対する感度が高くなっているんです。
人間はコミュニケーションに音声を使うのですから当たり前の話なのですが、それ故に声の表現というのはスピーカーにとっては意外と難しいのです。
ですから 声、ヴォーカルが良いスピーカーというのは実はそれほど多く無いのです。
僕はやはりヴォーカルが良いスピーカーでないと使いたくならない。
T. 繰り返しになりますが、こういうスピーカーで聴くとこのヴォーカルがより良く聴こえます。
今も聴いていて、「やっぱり彼女のヴォーカルは素晴らしいなあ」と再認識しました。今私のイチオシなので色んな方に聴いていただきたいです。
>>>Part2へ続く
▼Beatinkについて
Beatink(ビートインク)は、1994年に設立。
ブライアン・イーノやエイフェックス・ツイン、サンダーキャット、トム・ミッシュ等、世界的な人気を誇るアーティストの楽曲を数多く紹介し、海外アーティストの招聘やマネジメント、音楽やアートイベントの企画運営、CDやレコードの制作やプロモーション、流通など、音楽業務を丸ごと行う音楽制作会社。
20年以上のキャリアと、国内外における強いコネクションを活かし、斬新かつ洗練されたアイディアに基づく企画・制作・コミュニケーションを通じて、ニーズに合った幅広い「サウンドデザイン」を提供。
▼製品紹介
●Q Acoustics Bluetooth対応 アクティブスピーカー M20
- 製品仕様
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周波数特性 55Hz~22kHz
入力 アナログ: RCA, 3.5mm -
デジタル: USB (type B), OPT(オプティカル)
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ワイヤレス: Bluetooth
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パワーアンプ出力 65W x2
外形寸法 279 x 170 x 296 (HxWxD/mm) -
重量 5.5 kg (アクティブスピーカー)/ 5.1 kg (パッシブスピーカー)
ご不明点やご購入を検討する際は、弊社までお問い合わせください。
上記ストアで販売中です。 不明点等お気軽にお問い合わせください。
●ESF FOR RENT (ESF取り扱い製品貸し出しサービス)
イースタンサウンドファクトリーが取り扱う製品を、お客様ご自宅の環境で試聴して頂ける試聴機貸出サービス(保証金必須)をご用意致しました。
試聴後製品が気に入られた場合、デモ機を返却していただき新品製品をご購入いただけます。デモ機の正常動作が確認でき次第、保証金は 全額返還 致します。
ぜひお試しください。
●山本先生のこれまでの弊社取り扱い製品試聴記事も是非合わせてご一読ください。
・Q Acoustics 3020i/audiolab 8300A・CD
・Q Acoustics 3010i/3020i/Concept20
・Q Acoustics 3050i/audiolab 8300XP
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山本浩司先生 プロフィール
- サウンド社の雑誌「HiVi」「ホームシアター」編集長を経て、オーディオ・ヴィジュアル評論家へ転身。最新のオーディオ&ヴィジュアル機器を雑誌やWEBで評論している。
- 田中木里子さん プロフィール
- Beatink / Beggars Japan Product Manager
- 音楽界のエッジの効いたガテン系集団「ビートインク/ビート・レコード」の女豹担当。 まだまだ体力に自信あり。好奇心旺盛で人懐っこく、飽くなき探究心から繋がる珍奇な交友関係も武器。寂しがりやで化粧下手。
- https://www.beatink.com/